聖地を完成させるために
当山も、人びとの「この世の幸せとあの世の安心のために」より一層、法務を遂行できる場にしたいと願っています。
お大師様が広くご寄進を募るために記された渾身の書を意訳し、当山の決意とします。
謹んでお勧めする、仏塔とマンダラをお造り申し上げる書。
そもそも、諸々のみ仏のなされることは、大いなる慈しみの心を第一とされ、菩薩の衆生を救おうとする行為と願いは、大いなる憐れみを要点としている。
慈しみは人びとへ楽を与え、憐れみは人びとを苦しみから救い出す。
苦しみから救い出し楽を与えるための基礎は、人びとへ正しいみ仏の道を示すことに他ならない。
いわゆる正しい道には二種類ある。
一つには、瞑想と智慧をもっぱらにするもので、もう一つには、善行によって人びとへ福徳をもたらすものである。
瞑想と智慧は、正しい教えを学び、瞑想を行ずることを主とし、福徳をもたらすためには、仏塔を建て、仏像を造ることを要点とする。
過去・現在・未来の諸々のみ仏も、世界中の菩薩も、すべてこうした福徳をもたらす行いと、瞑想と智慧とによって悟りの境地を完成する。
それゆえに、最近、国王・父母・衆生・三宝の恩に報い、自利・利他を完全になし遂げようと、高野山金剛峯寺に、ビルシャナ仏という宇宙の本体を表す二基の塔を建て、胎蔵・金剛両方のマンダラを造ることにした。
しかし、労役に従事してくれる人びとはたくさんいても、食料に事欠く状態である。
今、思うに、貴賎を問わぬ人びと、僧侶・尼僧・男性信徒・女性信徒と共に、この功徳ある仕事をなし遂げたい。
小さな塵も積もり積もれば大きな山となり、一滴のしずくも集まれば大きな海をより深いものにする。そのように、心を一つにし力を合わせてこの仕事を完成させたい。
衷心よりお願い申し上げる。
諸々の施主の方々がそれぞれ金一銭、あるいは米一粒でも提供して、功徳ある仕事へ協力していただきたい。
そうすれば、この仕事は、日ならずして成就するに違いない。
そこから生ずる功徳は永遠に滅することなく、世界を覆うことだろう。
功徳は、現在も未来も、国王・父母・衆生・三宝の恩へ充分にお報いし、五種類の天神は、眼に見える福も眼に見えない福も、豊かにもたらしてくれることだろう。
こうして、皆と共に無明を脱し、等しく大日如来の悟りの御殿で遊ぼうではないか。
謹んでお勧め申し上げる。
承和元年(834年)八月二十三日
以下が原文の読み下しです。
敬って勧む、仏塔曼荼羅を造り奉る知識の書
敬って勧む、仏塔曼荼羅等を造り奉る応(ベ)き書。
夫れ諸仏の事業(ジゴウ)は、 大慈を以て先と為し、 菩薩の行願(ギョウガン)は、 大悲を以て本(ホン)と為す。 慈は能(ヨ)く楽を与へ、 悲は能(ヨ)く苦を抜く。 抜苦与楽(バックヨラク)の基(モトイ)、 人に正路(ショウロ)を示す、 是(コレ)なり。 謂(イ)う所の正路に、 二種有り。 一には定慧(ジョウエ)門、 二には福徳の門。 定慧は正法(ショウボウ)を聞き、 禅定を修するを以て旨と為し、 福徳は仏塔を建て、 仏像を造するを以て要と為す。 三世の諸仏、 十方の薩埵(サッタ)、 皆斯(コ)の福智を営みて、 仏果を円満す。 是の故に比年、 四恩を抜済(バッサイ)し、 二利を具足せんが為に、 金剛峯寺に於て、 毘盧遮那法界体性塔(ビルシャナホウカイタイショウトウ)二基、 及び胎蔵、 金剛界両部曼荼羅を建て奉る。 然るに今 工夫(コウフ)数多(アマタ)にして、 粮食(りょうしょく)給し難し。
今思はく、 諸の貴賤の四衆と、 斯(コ)の功業(クゴウ)を同じくせんと。 一塵(イチジン)大嶽(タイガク) を 崇(タカ) うし、 一滴広海を深うする所以(ユエン)は、 心を同じくし、 力を 勠(アワ) すが、 之(コレ)致す所なり。
伏して乞ふ。 諸の檀越(ダンオチ)等、 各(オノオノ)一銭、 一粒(イチリュウ)の物を添へて、 斯の功徳を相済(アイスク)へ。 然らば則ち営む所の事業、 不日にして成らん。 生ずる所の功徳万劫(マンゴウ)にして、 広からん。 四恩は現当(ゲントウ)の徳に飽き、 五類は幽顕(ユウケン))の福を饒(ユタカ)にせん。 同じく無明(ムミョウ)の郷(サト)を脱して、 斉(ヒト)しく大日の殿に遊ばん。 敬って勧む。
承和元年八月二十三日


