宮床開運守本尊 大師山 法楽寺 〜法灯により法友とともに法楽に住せん〜

2008-09

菩薩の穢れ

 「『1月の聖悟』に書かれている菩薩(ボサツ)様のまとう『苦の気配』について、どういう風に考えれば良いのでしょうか?」とのご質問がありました。
 確かに、お地蔵様であれ、文殊様であれ、ご本尊様として私たちを導くほどのお力があるのに、どういうことでしょう。考えてみましょう。

 密教では、地獄から如来までの世界全体を二面からとらえます。
 一つは横平等(オウビョウドウ)、一つは堅差別(シュサベツ)です。

 横平等とは、すべての存在は大日如来の徳の顕われである以上かけがえのない存在意義があると観るものであり、堅差別とは、さまざまなありようの多様性をはっきりと観極めるものです。
 たとえば男女の両性をとりあげるならば、男女に尊卑・貴賤・優劣はなく、男性がいてこその女性、女性がいてこその男性であって、互いに尊重し合うべき存在であると観て行動するのが横平等の立場です。
 また、男女に差別はないけれども厳然とした区別があり、お互いの異なった徳を認め合い、それぞれの持つ特性を大切にして接し合ってこそ男性であり、女性であると観て行動するのが堅差別の立場です。

 二つの立場のバランスがとれてこそ、般若心経で説く「遠離一切顚倒夢想(オンリイッサイテンドウムソウ)」つまり、ひねくれた観方や妄想を離れた澄んだ眼が得られます。
 当山がジェンダーフリーという思想を「狂風」と言うのは、横平等を求めるあまり堅差別を故意に無視しており、結果として子どもたちの健全な発育を損ない、男女両性の輝きを曇らせてしまうからです。
 不自然に偏ったものは、必ず不自然な結果をもたらすものです。注意せねばなりません。

 さて、今回の問題は、〈堅差別の世界観〉によるものです。
 まず、如来と菩薩の違いです。
 如来は、完全な悟りの世界を家として常にそこに住んでおられる方々です。
「こここそが真の極楽ですよ。
 ここはあなた方のふるさとであり、人間修行の到達点です。
 また、あなた方の心には、ふるさとである極楽の光が必ず宿っていますよ」と教えてくださいます。
 菩薩は、悟りの世界にとどまらずに苦の世界へ降りてこられ、私たちを大きな船に乗せて救い出してくださる方々です。
「いつまで迷っているのですか。
 過ちを犯すのは真の貴方ではありません。
 苦しいのは真の世界を知らず心の眼が曇っているからです。
 さあ、ふるさとをめざすこの船に乗って真の貴方をとりもどしましょう。
 迷いの世界を離れましょう」と手を引いてくださいます。

 如来は塵一つない世界で理想を示しておられるので、一切の穢れをまといません。
 菩薩は極楽と苦界を常に行き来しているので、穢れをまとってしまう場合があるのです。

 また、菩薩とは、菩薩行に励む存在すべてです。
 何も虚空蔵菩薩様や観音菩薩様だけではありません。
 六波羅密(ロッパラミツ…布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧)を行ずる者はすべて菩薩であり、私たちのめざす理想の生き方は菩薩です。
 それは〈自分のことだけを考えず、自他共に真に幸せでありますようにと願い、そのための行動ができるように自分自身を鍛え、実践する人〉です。
 たとえば勇敢な自衛隊員・消防士・警察官・ライフセーバー、子供のためにはいのちをも惜しまぬ慈悲そのものの母親、家族のために辛い場面をぐっとこらえて黙々と働く忍辱の父親、だれでもが菩薩です。

 アメリカを襲った巨大ハリケーンによる被害者の方々の様子は、実に悲惨でした。
 巨大帝国の暗部が明らかになりました。
 水や食料や衣料品や家財道具を求めて商店を襲う人々の形相は恐ろしく、哀れでもあり、阪神大震災直後の日本との違いにあきれ、日本人であることに感謝したものです。
 しかし、暴徒たちを嘲ってばかりはいられません。
 もしも自分が被害者としてあそこにいたならどうしただろうか。
 もしも空腹で泣く子供やケガをした妻と一緒にとり残されていたならどうしただろうかと想像すると、決して他人ごとではないのです。
 前世・来世、あるいはこの先に同じような体験がないと言い切ることはできません。
 場合によっては、たとえ見ず知らずの人であっても乳飲み子を抱いた若い母親がミルクを求めてさまよっていたならば、不偸盗の禁戒をおかして商店のドアを蹴破るかも知れないではありませんか。

 たとえ自分が地獄に堕ちようと誰かを救わねばならぬ場面ではそれを断行する人。恐れぬ菩薩はどこにでもおられます。
 誰でもが菩薩になれます。
 いいや、菩薩になりましょう。本来菩薩である人間の真姿を生きましょう。
 ―――たとえ穢れをまとおうとも………。

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