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2014
07.14

悲哀のままに喜悦へ至った関根正二 ―二つの自画像について─

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自画像

 7月13日の日曜美術館は、明治32年に生まれ、20年で逝った画家関根正二を紹介した。
 信濃デッサン館(長野県)の館長窪島誠一郎氏は、開館のために、どうしても欲しかったのが関根正二の『自画像』だったという。
 17才で書いたこの作品には三つの顔がある。
 窪島誠一郎氏は言う。
「上は沈思黙考。
 下はふと何かを決意したような顔。
 そしてその決意を果たしてそれでいいのかと大きな自画像が問い詰めている」
 脳を絞るような探求と一瞬の気づきは、将棋の棋士を思わせる。
 棋士は絶妙手を発見しても、決して飛び上がらない。
 勝負は最後までわからないからだ。
 自画像はまるで、行く末の厳しさをすべて見透そうとでもしているかのようである。

 オスカーワイルドを耽読し、「悲哀のみ唯一の真理」に強く惹かれた関根正二は書いた。
「どうして人間は泣くように生まれたのでしょう」
 福島県立美術館学芸課長伊藤匡氏は指摘する。
「失恋と貧乏の一生だった。
 生きた、恋した、書いた、なのです」
 アトリエは長屋の2畳ほどしかなく、絵の具も満足に買えない貧しい暮らしの中で、関根正二は伊東深水、今東光らと交わりながら苦闘した。

 ペンによるデッサンに励んだが、死の直前、手元にあるものはすべて自分で燃やした。
 残ったのは『「自画像』を含め、信濃デッサン館に蔵されている10点のみである。
 窪島誠一郎氏は言う。
「17歳の自画像には西洋の巨匠たちのように線によって対象を捉え尽くそうとする気迫が籠もっている。
 彼が愛してたのは竹ペンとインク。
 強さの中に〈しなり〉がある。
 色彩を超えたものが線。
 人間の持つ陰影が、必要最小限のものによって描かれた」

 美術史家の酒井忠康氏は言う。
「デッサンというのは、ある意味で、いわば感受性の台所。
 想像力が加われば料理になる」

 ルオーの言葉を思い出した。
「デッサンは目覚めた精神のほとばしりだ」
「強い作品と実直な作品とを区別するものは、時として外見上は些細なものだが、実際は一つの『深淵』だ。
 音楽家が鍵盤に触れる、またはヴァイオリンの弦に弓を置く敏感なやり方、主題と取り組むやりかただ」

 関根正二のデッサンは、まぎれもなく、ほとばしっている。
 こうあるしかありようがない、という強さがある。
 ただ、ニューヨークヤンキースの田中将大投手が凄まじいスプリットを投げてバッターを打ち取り、役割を果たしたあげく肘を故障したのに似て、その〈強さ〉は、どこかで、心身の限界を超えてしまっていたのではなかろうか。

 関根正二は「関根のバーミリオン」と呼ばれる朱色にたどりついた。
 そして大正8年、病魔に冒され、20年と2ヶ月の人生を終える。
 衰弱しきった身体から痩せた手を伸ばし、恐ろしい形相で虚空に絵を描いた。
 また、ルオーの言葉を思い出す。
「作品だけが残る。
 巡礼よ、君が困難な抜け道の上で苦しんだことを、『現在』そしてさらに『未来』は何ら斟酌(シンシャク)しない」
「最善の努力がはたされ、そして望ましい点に導かれないうちはその努力が中断されなかった人々は幸いだ」
「芸術とは無関係な、しばしばみじめな理由のために、自分のつらい仕事から引き離されなかった人々は幸福、至福である」


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三星

 関根正二は、亡くなった年に『三星』を描いた。
 二人の女性に挟まれた自画像には「関根のバーミリオン」が際立ち、敬愛するゴッホの『耳を切った自画像』に似て、耳が隠されている。
 17才時のデッサン『自画像』における険しさは背景に退いている。
 むしろ、同時期に描かれた『信仰の悲しみ』を歩く女性のまなざしと通じるものがある。
 この作品は当初『楽しい国土』と名づけられていた。
 絵を目にした友人伊東深水が、楽しさよりも悲しみを感じると指摘したことがきっかけとなり、名は変えられた。
 17才にして人生の底に涙と悲哀を観てしまった関根正二。
 ついにつかんだ楽しさすらも、本人が気づかぬまま、悲しみをまとっていた関根正二。
 若山牧水は詠んだ。
「山ねむる山のふもとに海ねむるかなしき春の国を旅ゆく」
 死を伴走者とした人生から悲哀は消えない。
 悲哀即喜悦の境地まで行き着いた関根正二は、芸術家として「幸福、至福」な死を迎えたと言えるのではなかろうか。

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信仰の悲しみ




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