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2005
07.03

なすべきこと

 Tさんの四十九日が来ました。祭壇の中央にある遺影の目は未来をめざす光を宿したままですが、その隣には、もう立派な仏壇と黒塗りの位牌が用意されています。

 修法が終わると、相変わらず肩が落ちたままの奥さんは、問わず語りに亡きご主人の話をされました。

「子供たちと孫たちをお墓へ連れて行って、『お前たちは、これから先、何かどうしても判らないことがあったら、ここでおじいちゃんへ訊きなさい。どうすれば良いか必ず教えてやるからね』と言ってました。前から自分の身体のことは気づいていたんでしょうねえ」

 Tさんは、墓石の隣に石でイスとテーブルを作り、ここで山を眺めながらおにぎりでも食って、ゆっくりオヤジと話をするんですと笑っておられましたが、それは、子孫と自分とのありようについての理想でもあったのです。



「入院する前に家族それぞれに宛てた書き物をちゃんと用意していて、亡くなって開いてみたら、全部に『お母さんを頼む』という言葉が入っていました。私は何ごとも主人を頼って来ましたから、心配だったんでしょうねえ」

 ご主人を立てる姿勢のある奥さんだからこそ、ご主人は大切にし、亡き後の心配もしておられたのでしょう。

 ただし、急いでつけ加えねばならないのは、このご夫婦の間柄は、流行の思想を主張する人々が眉をつり上げて糾弾するような隷属的関係などではないに違いないということです。

 長いこと理想の墓地を探しておられたご夫婦に『法楽の苑』で初めてお会いした時、Tさんは「ここで良いな、お母さん」と奥さんをふり返りました。Tさんの顔はとても優しく、妻が自分と同じ安心感を感じてくれていることを確認したいのがよく解りました。まるでずっと欲しくていたオモチャか何かをやっと探し当てた少年のような無邪気な喜びと、認めてもらいたいという奥さんへの信頼感がそのままあふれ出ていて、この温かいご夫婦と当山との仏縁の糸が結ばれたことを、一瞬で確信したものです。



 Tさんは、延命治療をせぬようにと書き残し、ご家族に決断の時が来ました。

「なかなか言えなかったけど、頑張って先生に言ったのよね………」

 無言で横にいる母親を見やる娘さんは、涙ぐみながらも、心なしか胸を張っているようでもありました。



 Tさんは、見事になすべきことをなし、旅立たれました。み仏から授かった戒名には「巌」の文字が入っています。



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