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2014
11.05

風花やなほ哀歓の長子われ(楠本憲吉)

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 楠本憲吉は、天保元年(1830年)創業の老舗料理店「灘萬」に長男として生まれた。
 大正11年師走、場所は大阪船場である。
 慶大生のまま太平洋戦争に従軍し、俳句の道へ入る。
 昭和20年8月15日、天皇陛下の玉音放送がラジオから流れ、国民は敗戦を知った。
 その年、冬を迎えて憲吉は詠んだ。

「風花(カザハナ)やなほ哀歓の長子(チョウシ)われ」


 冬の晴れた日、陽光に煌めきながら雪が舞う。
 上空から花のように舞い降りる。
 寒さと静けさの中に、奇跡のような華やぎはある。
 しかし、それはあまりに儚い。
 ああ、と起こった感興(カンキョウ)に浸るまもなく止んでしまえば、何のこともない青空が広がっているのみである。

 23才の憲吉が風花へ思いを託した一句には、まるで、その後の人生を見透してしまったかのような苦悩と哀感がある。
 金銭に不自由はないが、やがて〈当主〉とならねばならぬ鎖はあるのだ。
 事実、「慶大俳句」を組織したり、「青玄」の同人になったりして大車輪の活躍を始める一方、冒頭の句を納めた第一句集『隠花植物』に寄せられた文章は、あまりにも暗い。
「俳句作家の楠本憲吉は、僕の日常の目に届かぬ隠密な場所で、苦汁に満ちた時間をかけて独自な仕事にいそしんでいたのである」(菱山修三)
「憲吉はよほど暗い星の下に生まれた奴に違いない」(こしば・じゅん)

 その後の憲吉が見せた溢れんばかりの才能に輝く俳句や評論や、テレビでの洒脱なやりとりには、ほとんど「苦汁」や「暗い星」は感じられない。
 しかし、こうした句はどこから生まれるのであろうか。

「寒雲の片々(ヘンペン)たれば仰がるる」

「寒スバル裁かるがごと振り仰ぐ」

 雲も星々も、心中の鬱屈(ウックツ)を知っている。
 雲やスバルを見上げる時、雲の白さや星団の光は、〈真実ならざるもの〉を抱えたまま、その状態に蓋をしている自分へ微かな救いを与える。

 志望どおりの道へ進めなかった私は商売に精を出し、表面的には成功しつつも、心の浮き草のまま、破滅した。
 真実ならざるものを抱え、それに甘えもしたまま本当に成功できるほど世の中は甘くない。
 やがて仏道が幻は消し去ったが、過去の罪は消せないまま、どうにか生きている。
 友人に典型的な理科系の男がいる。
 当然、大学の理系に悠々と合格すると思っていたのに、紆余曲折の末、金融関係の企業へ入り、定年まで役割をまっとうした。
 愚痴はひとことも漏らさず、黙々と勤め上げ、親を送り、あまりにも早く、妻までも送ってしまった。
 通勤のおり、哲学者のような風貌でやや下を向き、いつも同じタイミングで黙々と歩く彼の姿は神々しかった。
 彼に山ほど懊悩はあったろうが罪はなかったのではないかと思うと、我が身を省みて忸怩たる思いになる。

 私たちは多かれ少なかれ、何かを〈抱えつつ〉生きている。
 生い立ちや環境や生きざまが、知らぬ間に招かざるものを抱えさせる。
 そして、それと気づいた時、心中にもまた生来、招かざるものを抱えていたことを知る。
 ままならぬ世に、生死のままならぬ存在として生まれた者の宿命である。

 11月1日、末期ガンを公表した米国人ブリタニー・メイナードさん(29才)が自死した。
 当然、賛否両論だが、人間としての尊厳をかけた決断であったろうと想像はできる。
 11月3日、線路へ一升瓶を置いた池田直樹容疑者(56才)が逮捕された。
 自供によると「幸せな人を見ると妨害したい気持ちになった」という。
 前者は、いのちをかけて、抱えたものから飛翔した。
 後者は、抱えたものを暴発させ、自滅した。

 楠本憲吉の最期はどうだったのだろうか。
 辞世の句である。

「失いしことば失いしまま師走」




 原発事故の早期終息のため、復興へのご加護のため、般若心経の祈りを続けましょう。
 般若心経の音声はこちらからどうぞ。(祈願の太鼓が入っています)
 お聴きいただくには 音楽再生ソフトが必要です。お持ちでない方は無料でWindows Media Player がダウンロードできます。こちらからどうぞ。




「おん さんまや さとばん」※今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0





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