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2015
02.04

お見合いにでかけた話 ―人は皆死に逝くものと知って春が来る―

201502040001.jpg

 ある日、ところどころ凍結した道に注意しながら業者様の事務所でお見合いをした。
 もちろん、相手は異性でなく、仏縁を求めるAさんご夫婦である。
 当山へお見合いにおでかけになる方々は毎月、絶えないが、出張はあまり、ない。
 しかし、ご事情があるとのことで、でかけた。

 予定の時刻よりかなり早く現場へ到着し、仕事の邪魔をしてしまうかな?と心配しつつドアを開けたら、小柄なご夫婦はすでに、待っておられた。
 机上には当山のスナップ写真が数枚、重ねられている。
 業者様が事前に墓地や本堂などを撮ってくださったものであり、感謝の念が一気に強まった。
 立ち上がり、おでかけいただいてすみませんと繰り返すお二人がようやく腰を下ろされ、室内の明るさと暖かさが身に沁みてきた。

 遠方の出身者であるご主人はバリバリと仕事をしておられたが偶然、ガンの宣告を受け、大手術をきっかけにして人生行路が変わった。
「本当の救いは宗教にあるんですよね?」
 15年間、ずっとご自身なりに宗教を勉強してこられたそうだが、にこやかで面長なお顔からは謙虚さしか読み取れない。
 机をはさんで対面しながら、やや、ご主人よりも背を低め、幾分かイスを引いて座っている奥さんは視線を落としたままである。

 15年間かけて仏教を選びとり、墓地も用意し、今は救われていると感じているらしい。
 残った問題は自分たちを送ってくれる安心な僧侶と巡り会えるかどうかだけになったと率直に言われる。
「自分の寿命ってわかるものですよね?」
 奥さんも、立ち会った従業員さんも「そんなことないわよ」とやんわり応じたが、私は黙っていた。

 昭和13年、従軍の体験者である作家石川達三が書いた『生きてゐる兵隊』を思い出した。

「彼らが無傷で戦ってゐるあひだはどれほど戦友が斃れようとも覚醒するときのないはげしい夢遊状態のやうであった。
 むしろ戦闘がはげしくなればはげしいほど彼等の昏迷はふかかった。
 そしてひとたび敵弾が彼等の肉体に穴をあけたとき、卒然として生きてゐる自分を発見し死に直面してゐる自分をさとるもののやうであった。」


 私たちは、いつ「肉体に穴をあけ」られ、いつ「斃れようとも」不思議でない存在なのに、「無傷で戦って」いる日常生活にあっては、なかなか、その真実に気づかない。
 実際に身体に穴を発見するまで……。

 目の前で慎重に言葉を紡いでおられるご主人は、死や、死に逝く者(自分を含め)を〈そちら側〉へ置いたままにできないが、死ねばそれっきりさと〈そちら側〉へ置く人々は、果たして、自分のいのちを大切にできようか?
 上記の本にはこう書かれている。

「敵の命をごみ屑のやうに軽蔑すると同時に自分の命をも全く軽蔑してゐるやうであった。
 それは身を鴻毛(コウモウ…おおとりの羽毛)の軽きに置くといふほどはっきりした意識をもって自己にその観念を強制したものではなくて、敵を軽蔑してゐるあひだにいつの間にかが命をも軽蔑する気になって行くもののやうであった。」


 戦場で敵のいのちを軽んじるようになると、「いつの間にか」自分のいのちをも軽んじてしまう。
 自己中心で無夢中になっている私たちの日常生活でもまた、他人を軽んじ、死や、死に逝く人を軽んじていはしないか?
 それが実は、自分のいのちをも軽んじているという真実に気づかないのではないか?
 今生きている自分だけを大切にして生きるなどということがとんでもない錯覚であると知らず、幻の(ガ)に操られる夢遊病者のように過ごしていはしないか?

 Aさんご夫婦は、大病によって人生の真実と向き合うようになられた。
 穏やかな笑顔はもう、み仏の世界におられることを証している。
 救われている方々に救われ、次の修法を行う場へ向かった。
 雲にも福寿草にも、春がそこまで来ていることを知らされた。




 原発事故の早期終息のため、復興へのご加護のため、般若心経の祈りを続けましょう。
 般若心経の音声はこちらからどうぞ。(祈願の太鼓が入っています)
 お聴きいただくには 音楽再生ソフトが必要です。お持ちでない方は無料でWindows Media Player がダウンロードできます。こちらからどうぞ。



「おん あみりたていせい から うん」※今日の守本尊阿弥陀如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=4OCvhacDR7Y





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