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2016
05.11

ボクサーと僧侶 ─沢木耕太郎氏の目に映った「捨てるもの」と「得るもの」─

2016-05-11-0001.jpg

 作家沢木耕太郎氏が朝日新聞に「春に散る」を連載している。
 結末がどうなるかはわからないが、今のところ、若いボクサーが育って行く物語である。
 かつての強豪藤原は若い翔吾へ語りかける。
 あるジムの会長が「ボクサーというのはリングの上で自由になるために練習をする」と言った言葉をきっかけに諭す。

「それは半分しか正しくない言葉のような記がするんだ。
 アマチュアのボクサーならそれでいい。
 でも、プロボクサーは、それだけでは駄目だと思う。
 プロとアマの違いは金を貰ってボクシングをするということだ。
 ただ自分が自由になるところを見せるだけでは金は貰えない。
 プロボクサーというのは、観客に勇気を見せることで金を貰う職業なんだ。
 打たれても向かっていく。
 倒されても立ち上がる。
 死んだ会長もトレーナーの白石さんも、そういうボクサーを嫌っていた。
 打たれないで打つ。
 倒されないで倒す。
 でも、実際にギリギリの戦いをしていると、打たれるとわかっていても打ちにいかなくてはならないときがある。
 あのインサイド・アッパーも一歩間違えば倒されてしまう。
 ボクサーはその恐怖を乗り越えて打ちにいく。
 観客はその勇気に金を払ってくれるんだ……」


 僧侶に対してはこう言い換えられそうだ。
「仏教に興味があるアマチュアなら、拝んでいる時に自分が解放されるだけでいいだろう。
 でも、プロ僧侶ならそれだけでは駄目だと思う。
 プロとアマの違いは、お仕えするご本尊様へお布施をいただくに足るはたらきができるかどうかということだ。
 ただ自分が解放されている状態の僧侶を見ても、お布施を渡す気にはなれない。
 プロ僧侶というのは、ご本尊様へおすがりする方の願いに応じ、身に着けた法力の世界を感じとってもらえるレベルの修法を行い、自発的に差し出されるお布施を受け取る職業なんだ。
 どこまで行ったらよいかわからない無限の深みへ踏み込んで行く。
 胆力も声も続かないかと不安が一瞬よぎってもなお、倒れない限り踏み込んで行く。
 見える範囲、聞こえる範囲でうまくやり、途中から引き返してきても、修法の依頼者や参集した方々は文句を言わないだろう。
 でも、法へ入れば、うまくはやれなくなる。
 技術や計算の世界ではない。
 プロの僧侶はそこを完全に離れて仏界を現前させる。
 ご縁の方は、その異次元を感得すればこそ、ご本尊様へ心からのお布施を差し出してくださるのだ。
 決して、いただくお金の範囲で拝むのではなく、拝んだ労力に対してお金をいただくのでもない。
 そもそも、修行とは、み仏の世界、すなわち異次元へ入って衆生のために力を尽くせるだけの能力を身につけるものだ。
 娑婆の損得を離れた世界を感じとった方もまた損得からでなく、自主的に、まごころからお布施をくださるだろう」

 沢木耕太郎氏の書くものは必ず、テーマとする世界の胆(キモ)をつかんでいる。
 胆にかけている人間としては、読むことが再確認の貴重な機会となる。
 自分が懸命にやっているところまでズイッと入って来てしまう観察眼と筆力にはただただ、舌を巻くばかりである。
 氏が手がける世界へ関心を持っておられる方々もきっと、「そうか!」と膝を叩いたり、「うーん」と唸らされたりすることだろう。
 そう言えば、氏はこんなことを書いていた。 

「何かを捨てて、何かを得る。
 生きるとは、何かを捨てて何かを得るという繰り返しの中にある、と言えなくもない。」


 捨てようとしているもの、得ようとしているものが氏にはお見通しなのだろうか。




 原発事故の早期終息のため、復興へのご加護のため、般若心経の祈りを続けましょう。
 般若心経の音声はこちらからどうぞ。(祈願の太鼓が入っています)
 お聴きいただくには 音楽再生ソフトが必要です。お持ちでない方は無料でWindows Media Player がダウンロードできます。こちらからどうぞ。




「おん さんまや さとばん」※今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0





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